東京高等裁判所 昭和24年(ラ)202号 判決
本件抗告理由の要旨は次の如くである。(一)原決定は本件停止決定の申請を排斥する理由として、地方公共団体の議会の解散請求に関し選挙管理委員会のなした処分行爲につき、行政事件訴訟特例法第二條のいわゆる抗告訴訟において之が当否を爭い得るものはその解散請求者に限るのであつて、当該議会は投票告示処分につき何等直接の利害関係を有しないから、右抗告訴訟によつて該処分の当否を爭うことができないものであると説示している。しかし(イ)行政事件訴訟特例法第一條によれば行政訴訟はいわゆる抗告訴訟のみに限定されたものではないから、解散請求者が抗告訴訟をなし得るとの一事をもつて当該議会が全面的に行政訴訟を提起し得ないと断定することは不当である、(ロ)解散請求手続においては当該議会がその対象となつているものであるから、右手続の一段階としての投票告示処分につき、該議会が直接の利害関係を有することは明らかである。このことは議会が解散投票の効力に関し異議、訴願ならびに高等裁判所に出訴し得る不服申立手続の認められている点からも充分うかがい得られる所である。從つて当該議会は投票告示処分につき直接の利害関係なしとする原審の見解は失当である。(ニ)原決定はまた本件申請を却下する理由として、本件投票告示処分の執行によつて行政事件訴訟特例法第十條第二項にいわゆる「償うことのできない損害」を生ずるものとは考えられないから、該処分の執行停止は許されないと判示している。しかし、同法條にいわゆる損害とは單に法律上のものに限らず廣く経済上、政治上の現実的損害をも包含するものと解すべきであるところ、抗告人たる下妻町議会が右告示処分の執行により多大の経済的政治的損害を被るべきことは明白であるから、右法條にいわゆる「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」場合に該当するものとして、本件申請は許容さるべきである。よつて原決定は失当であるから之を取消し更に相当なる裁判あらんことを求めるため本件抗告に及んだのである。
よつてあんずるに、本件申請の理由とするところは、下妻町選挙管理委員会が同町議会の解散請求につき昭和二十四年十一月十日告示第五十四号をもつてなしたる「同議会解散の賛否投票を同年十二月二日行う」との告示は違法なる行政処分であるから、之が取消訴訟を提起するに当り、右告示による投票の停止を求めるため該告示の効力の停止を申請するものである、というにある。しかしながら、投票告示の効力の停止は畢竟投票の停止を実現せんとする趣旨に外ならないから、未だ投票の行われない以前においてのみ該執行停止を求め得べき利益あるにとゞまり既に投票の施行完了した後には之に先だつ投票告示の執行停止を求むべき法律上の利益なきものと解するのが相当であるところ、下妻町選挙管理委員会委員長櫻井幸造より提出せられた「議会解散投票について照会の件回答」と題する書面によれば、前記議会解散の賛否投票は右告示の日たる昭和二十四年十二月二日に施行完了した事実が認められるから、叙上の説明によつて明らかな如く、当該投票にして既に完了したる以上、抗告人は最早本件投票告示の執行停止を求め得べき法律上の利益を有せざるに至つたものというべきである。從つて本件申請は既にこの点において採用することができないから、爾余の点を判断するまでもなく理由なしとして却下すべきものである。
されば該申請を排斥した原決定は結局正当であつて、本件抗告はその理由がないから之を棄却すべきものとし、抗告費用を抗告人に負担せしめ、主文の如く決定する。
(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)